役員退職給与の過大認定

ケース6

役員として経営に従事しなくなった昭和57年から6年後の昭和63年に支払われた代表者の母である監査役Aに対する役員退職給与1,500万円は、その功績も併せて判断すると不相当に高額な金額に該当するとは認められないと判断した事例(平3.12.11裁決 非公開)

1. 経過事実

  1. Aは昭和45年4月1日の請求人の設立と同時に監査役に就任し、その後、昭和57年10月30日付で監査役から取締役に就任し、また、昭和60年5月30日付で再び取締役から監査役に就任して、昭和63年12月21日付をもって監査役を辞任している。
  2. 夫である創業者が死亡した昭和57年以降、経営に関する重要な業務には従事していないことが認められ、役員としては取締役会に出席する程度である。

2. 役員報酬の過大認定

Aは、職務内容から判断すると、非常勤の取締役及び非常勤の監査役と認められるから、平成元年3月期は、監査役報酬450万円のうち適正報酬額と認められる170万円を上回る額、昭和60年3月から昭和63年3月期までは、それぞれ適正報酬額を上回る金額は、不相当に高額な部分の金額として損金の額に算入できないと審判所は判断した。

3. 役員退職給与の過大認定

役員退職給与の適正額は、次の算式による功績倍率法が使われる。

退職時適正報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率 = 適正額

最終報酬月額・勤続年数・功績倍率が適正計算の3要素であり、法人税法施行令72条に定める「不相当に高額」の基準のうち、「同種の事業を営む法人で事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等」がこの功績倍率で反映される。
この裁決事例では、原処分庁は、役員退職給与について、単に利益調整のために帳簿処理されたものと認められるとして対価性を否定しているが、退職給与の支給自体が適正であったとしても、退職時の適性報酬月額をいくらにするかにより、退職給与の適正額が変わってくる。
役員報酬の適性額=退職時適正月額(最終報酬月額)と機械的にあてはめると、退職時に非常勤役員であった場合、過去の経営に従事していた時代に対応する退職給与相当分が適正な退職給与に反映されなくなってしまう。

これに対する審判所の判断は、

  1. Aは請求人の設立当初の昭和45年から退任する昭和63年までの約19年間役員であった。
  2. 昭和57年までの約12年間は請求人の経営に従事していた。
  3. 当時の役員報酬額は月額45万円であった。
  4. 役員の分掌変更等において退職金を支給した事実もない。
  5. 創業者とともに個人事業であった事業を今日の請求人の規模まで発展させた功績。

以上の点から、請求人が損金の額に算入した本件退職金1,500万円は、法人税法36条に規定する不相当に高額な金額に該当するものとは認められないとした。

功績倍率は代表取締役や創業者など、特に貢献の大きな者については最高で約3.0とされています。しかしながら会社への貢献度が多大と認められる場合は、創業者特例などの名目で倍率を上げる場合もあります。
功績倍率法で合理性に欠ける場合、1年当たり平均額法が採用されることもあります。これは、類似する会社を数社選び、その平均的な退職金額を基に適正な退職金額を求める方法です。たとえば、長年会社の代表取締役であった人が、退職時に非常勤の取締役で報酬月額が減少している場合など、退任役員の最終月額報酬が以前の役員報酬と比べて低額な時に用いられます。

⇒ この方法を採用するならば、類似会社(業種、規模等の類似性)を数社選び、平均的な退職金額を選定しなければなりません。(1年当たり平均額法)

適正退職給与の額を功績倍率法により算出すべきであるとの原処分庁の主張を退け、1年当たり平均額法により算出することが相当であるとした事例

裁決事例集 No.32 – 231頁

請求人の退任役員に対する退職給与の額は、功績倍率法により算出した金額と1年当たり平均額法により算出した金額とのうち、いずれか高い金額を超える部分の金額を不相当に高額な部分の金額とすべきであるとの請求人の主張について、原処分庁は1年当たり平均額法は役員退職給与の額の算定の重要な要素である最終報酬月額が考慮されていないため、功績倍率法に比べて合理性を欠くので、採用できないとしたが、最終報酬月額が役員の在職期間を通じての会社に対する貢献を適正に反映したものでないなどの特段の事情があり低額であるときは、最終報酬月額を基礎とする功績倍率法により適正退職給与の額を算定する方法は妥当でなく、最終報酬月額を基礎としない1年当たり平均額法により算定する方法がより合理的である。

昭和61年9月1日裁決

T社における取扱いの検討事項

1. 副社長のT社における役員への就任等の履歴、役員報酬の履歴を説明できるようにする。
役員報酬として月額200万円以上の時期もありましたが、A社への移転時には、20万円までに減額していました。20万円という最終月額報酬は、副社長の退職金の算出基準とする最終月額報酬としては、適正ではありません。従って、功績倍率法による退職金の適性額を算出することには無理があるので、類似会社等の比較による方法で適正額を算出する必要があります。

2. 副社長のT社における役員としての貢献度を説明できるようにする。

  1. 現会長とともに、安定した経営状況を作り出すべく、寝食を忘れて貢献した。
  2. 現会長の補佐役として、営業管理、ドライバーの管理、総務事務、経理事務他、管理業務ぬ全てを統括していました。
  3. 金融機関からの借り入れを極力減らし、倒産のリスクを常に遠ざけるべく、自らの資金を拠出していました。

3. 副社長のT社在任中に、役員の分掌変更や、業務内容の大幅な変更はなかったか。
分掌変更はありませんでしたが、この近年は業務内容がかなり変わり、取締役としての責任も軽減されてきました。但し、重要な経営事項の決定に当たっては、その影響力は大きいままでした。

4. 現在のA社における業務状況(業務時間・日数、業務内容、業務場所)を説明できるようにする。

5. 役員退職金の支給方法
次の何れかの方法により計算した金額を参考として、取締役会(株主総会)にてその金額を決定します。但し、以下の計算方法によって算出した金額が、対象の退職役員の在職中の実績や貢献度等を適正に表していない場合には、合理的な理由をもって適正額を支給できるものとする。

(1) 退職時適正報酬月額を基礎とした計算方法

最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率

(2) 1年あたりの退職金の平均額法を基礎とした計算方法

役位別の1年あたり退職金 × 勤続年数

類似する会社を数社選び、その平均的な退職金額を基に適正な退職金額を求める方法です。

6. T社における役員退職金の基準額の合理的な算出方法(7の(1)による場合)

毎月の月額報酬にこだわるとすれば、次の2法が考えられます。

※ 表のはみ出した部分はスクロールしてご覧ください。

就任年月 役職 勤続年数 月額報酬 仮の功績倍率
S61年06月 取締役 7年 1,000,000円 2.0
H05年06月 取締役副社長 15年 2,300,000円 2.5
H20年06月 取締役 3年 200,000円 1.0
合計 25年

※以上の経歴等は、仮のものです。
上記の表から、役員退職金の適正額の計算方法について、次の通りの2通りの方法が考えられます。

【第1法】月額報酬が激減する直前の月額報酬をもって、役員退職金の基準額とします。
月額報酬 = 2,300,000円

【第2法】加重平均法によって、役員退職金の基準額を計算します。
① 月額報酬の加重平均
〔(100万円×7年)+(230万円×15年)+(20万円×3年)〕÷25年=168.4万円
② 功績倍率の加重平均
〔(2.0×7年)+(2.5×15年)+(1.0×3年)〕÷25年=2.18年

以上を参考にして、役員退職金の適正額を算出して下さい。