1. 定款に定める株式の譲渡制限

定款に定める株式の譲渡制限は「譲渡」による株式の取得について会社の承認を要求するに止まり、相続や合併といった一般承継によって譲渡制限株式を取得することについては会社の承認は必要ありません。しかし一般承継人が会社にとって好ましい者でない場合には、その者を排除できることとしています。
会社法では、定款の定めによって譲渡制限株式を相続や合併による一般承継人に対して売り渡すことを請求できることとしています。請求を受けた一般承継人である株主は、売買価格について、当該株式会社と協議をするか、請求があった日から20日以内に、裁判所に対し売買価格の決定の申立てをするのかいずれかとされています(同法177条1項、2項)。

2. 自己株式として取得した会社の会計処理と税務処理

会計上も税務上も自己株式の取得原価は手数料等の付随費用を含まない額です。会社としては払込資本の戻し(資産の取得ではない)ということで貸借対照表の純資産の部において株主資本の控除項目(資本の部に控除形式で記載)として表示します。
会計上は、付随費用を含まない実際の取引金額が自己株式の価額です。勿論、期末に保有する自己株式は、株主資本の末尾に控除形式で表示します。

貸借対照表

個人である同族株主Aは、発行済株式の40%に相当する株式を概ね適正価額で発行会社に売却することで双方(株主と発行会社)が合意しました。

会計処理

● 会社の買い取り価額は次の通りです。(1,000万円+200万円+300万円)×40%=600万円

● 会計処理 自己株式 600万円 / 現金預金 600万円

● 貸借対照表の表示は、純資産において資本の控除項目として表示

税務処理

● 税務上の仕訳

税務上の仕訳

会社としては、自己株式の取得は資本取引に該当するので課税関係は生じません。

3. 個人である同族株主Aが買取請求により会社に自己株式として売却した場合

買取請求等によって会社にとって自己株式を売却した場合には、資本等の金額に対応する部分は譲渡所得の対象、資本等の金額を超える金額に対応する部分はみなし配当として配当所得の対象になります。
仮に、同族株主Aが株式売却で売却益が生じないとしても「利益積立金」に対応する部分の金額はみなし配当課税の対象になります。

Aが自己株式を上記の金額で売却した場合

資本等の金額(480万円)については株式の譲渡所得、利益積立金の金額(120万円)についてはみなし配当所得の対象になります。みなし配当については源泉徴収の対象です。

適正価額より高額又は低額で自己株式の売買を行った場合

1. 個人である同族株主Aが高額で売却した場合

売主側は、高額な部分は役員賞与として給与所得、又は一所得課税の対象です。
買主側は、受贈益として益金算入し、寄附金又は役員賞与として損金不算入です。

2. 個人である同族株主Aが低額で売却した場合

売主側は、適正な価額との差額はみなし譲渡課税の対象です。
買主側は、適正な価額との差額は受贈益として益金算入です。

4. 相続等によって取得した株式のみなし配当課税の回避

相続等によって取得した非上場株式の株主である同族株主Aが、会社の買取請求によって自己株式として会社に売却した場合には、上記のみなし配当課税は開披出来ます。全てを株式の譲渡所得として取扱います。
みなし配当は、配当所得として総合課税の扱いになるので、所得税の超過累進税率の適用によって高税率(住民税を合わせた最高税率は55%)になる恐れがありますが、譲渡所得扱いによることで、20.315%(所得税+復興税+住民税)の一定税率の適用になります。
相続等が発生して3年以内(相続税申告書申告期限翌日から3年以内)の譲渡であれば適用出来ます。

5. 相続等により取得した財産を売却した場合の譲渡所得の特例

※ 相続税の取得費加算の特例

相続税の取得費加算の特例とは

個人が相続又は遺贈(以下「相続等」という。)により取得した財産の取得費は、被相続人が取得したときの取得価額をもとに計算され、譲渡所得の金額の計算上控除される取得費になります(所得税法第60条)。

取得費加算額の計算

取得費加算額は、次の算式により計算します(措令第25条の16第1項)。

計算式

譲渡者が納付した相続税額×A/B

A:譲渡者が相続等により取得した財産のうち譲渡したものの相続税法上の評価額
B:譲渡者が相続等により取得した財産の相続税法上の評価額の合計額