エンジェル税制とは、スタートアップへ投資を行った個人投資家に対して税制上の優遇措置を行う制度です。
スタートアップとは
革新的なビジネスモデルのもとで技術革新(イノベーション)をもたらして圧倒的な新規成長を実現し、IPOやM&Aを目指すことによって急成長する企業をいいます。
急成長を遂げる見込みのある会社組織であれば、規模や設立年数等に関わらずスタートアップに該当します。従って、斬新な事業計画で新たな事業を起こすベンチャー企業とは異なります。
スタートアップに投資をしてIPO(新規株式公開)やM&Aで利益を獲得出来ればいいのですが、会社が倒産したら投資額が0円になってしまいます。その不安から投資を控えるとしたら日本でスタートアップは育ちません。そこで、投資家に不安を少しでも取り除いてもらう施策として用意されたのがエンジェル投資税制です。
1.税制上の優遇措置の概略
「投資時点の優遇措置」と「株式売却時点の優遇措置」があります。
①スタートアップ企業へ投資(スタートアップ企業の新規発行株式を金銭の払込みで取得)を行った年の所得税額を軽減
Ⅰ.スタートアップ企業への投資額から2,000円を控除した相当額を総所得金額から控除
※上限は800万円、又は総所得金額の40%相当額です。
Ⅱ.スタートアップ企業への投資額を株式譲渡益から控除
②スタートアップ企業の株式の売却損失を、「他の株式譲渡益との損益通算」や、「控除しきれない損失を3年間繰越し」が可能
③投資額をその年の株式譲渡益から控除(プレシード・シード特例)
2.エンジェル税制の適用を受けるには
(1)要件
基準日(払込日)における企業要件と個人投資家要件を満たす必要があります。
企業要件
Ⅰ.設立5年未満の中小企業者であること
Ⅱ.企業の設立年数毎に応じた要件(以下、一例を示します。)
※ 表のはみ出した部分はスクロールしてご覧ください。
設立経過年数 | 設立年数1年未満かつ最初の事業年度を未経過 |
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優遇措置A |
・研究者あるいは新事業活動従事者≧2人+それが常勤の役員・従業員に占める割合≧10% ・事業計画(事業の将来の成長発展に向けた計画)を有する |
優遇措置B | ・研究者あるいは新事業活動従事者≧2人+それが常勤の役員・従業員に占める割合≧10% |
プレシード・シード特例 |
・優遇措置Bの要件と同じ ・事業計画(事業の将来の成長発展に向けた計画で、試験研究費等の対出資金額比率>30%の見込みを記載)を有する |
Ⅲ.外部(特定の株主グループ以外)からの投資を1/6以上取り入れている会社であること
⇒特定の株主ないし特定の株主グループの保有割合が6分の5を超えないこと
(プレシード・シード特例の適用を受ける場合は、1/20以上取り入れている会社であること)
Ⅳ.大規模法人グループの所有に属さないこと
Ⅴ.未登録・未上場の株式会社であること
Ⅵ.風俗営業等に該当する事業を行う会社でないこと
個人投資家要件
Ⅰ.スタートアップが同族会社である場合には、上位3順位までの株主グループの持株割合を順に加算し、割合が初めて50%超になる株主グループに属していないこと
Ⅱ.投資した会社に自らが営んでいた事業の全部を承継させた個人及びその親族等でないこと
Ⅲ.金銭の払込によりスタートアップの株式を取得していること
(2)スタートアップ企業による都道府県への確認申請
エンジェル税制を利用するには、都道府県にスタートアップ企業がエンジェル税制適用対象企業であること等の事前確認申請を行い、都道府県は「事前確認書」を交付して個人投資家は払込みを行います。後に正式に申請を受けた都道府県は確認後スタートアップ企業へ「確認書」を交付します。なお、スタートアップ企業は最終的には「確認書」を個人投資家へ送付して個人投資家は所得税の確定申告に使用します。
※都道府県が事前確認を行った場合には、経済産業省のホームページに掲載されます。
3.エンジェル税制の種類
投資する対象企業が(1)~(3)の何れに該当するかの判定が必要です。仮に(1)(2)に該当する場合は、エンジェル投資の将来の株式譲渡損等と他の株式の株式譲渡益との通算に適用出来る制度です。(3)に該当する場合は、投資額は寄附金控除(みなし寄付金)として所得控除の対象として適用します。
(1)特定投資株式の取得に要した金額の控除等の特例
⇔ 株式譲渡所得(上場株式・未上場株式)との通算・・・優遇措置B[10年未満]
特定中小会社が発行した株式(以下「特定株式」)の払込み(株式の発行に際して支出するものに限ります。)による取得(いわゆるストック・オプション税制の適用を受けるものを除きます。)に要した金額の合計額を、一般株式等に係る譲渡所得等の金額または上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除出来ます。
(注1)「特定中小会社」とは、次に掲げる法人などをいいます。
イ 中小企業等経営強化法第6条に規定する特定新規中小企業者に該当する株式会社
ロ 内国法人のうちその設立の日以後10年を経過していない株式会社(中小企業基本法第2条第1項各号に掲げる中小企業者に該当する会社であることその他の一定の要件を満たすものに限ります。)
ハ 内国法人のうち、沖縄振興特別措置法第57条の2第1項に規定する指定会社で平成26年4月1日から令和7年3月31日までの間に同項の規定による指定を受けたもの
(注2)エンジェル税制の優遇措置Bの場合(他の株式譲渡益がある場合)、ベンチャー投資した金額を譲渡益から控除出来ます。但し、エンジェル投資の結果として利益が出て売却した年に調整を受けて課税されます。 所謂、課税の繰延になります。
(2)設立特定株式の取得に要した金額の控除等の特例
⇔ 株式譲渡所得(上場株式・未上場株式)との通算・・・企業特例[1年未満]
特定株式会社が設立の際の発行株式(以下「設立特定株式」といいます。)で、発起人であること、自らが営んでいた事業の全部または一部を承継させた個人等に該当しないことなどの要件を充たす居住者等の払込みによる取得に要した金額の合計額を、一般株式等に係る譲渡所得等の金額または上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除出来ます。⇔ 株式譲渡所得との通算
(注3)「特定株式会社」とは、次の要件を満たす法人をいいます。
イ 中小企業等経営強化法第6条に規定する特定新規中小企業者に該当する株式会社
ロ その設立の日以後の期間が1年未満の株式会社であることその他の要件を満たすもの
(3)特定新規中小会社が発行した株式を取得した場合の課税の特例(寄附金控除)
⇔ 寄付金控除・・・優遇措置A[5年未満]
特定新規中小会社が発行した株式(以下「特定新規株式」)の払込みによる取得に要した金額(800万円を限度)については、寄附金控除を適用出来ます。なお、この特例の適用を受けた場合は、その適用を受けた特定新規株式の取得価額について一定の調整計算が必要となります。
(注3)「特定新規中小会社」とは、次に掲げる法人をいいます。
イ 中小企業等経営強化法第6条に規定する特定新規中小企業者に該当する株式会社(その設立の日以後の期間が1年未満のものその他の一定のものに限ります。)
ロ 内国法人のうちその設立の日以後5年を経過していない株式会社(中小企業基本法第2条第1項各号に掲げる中小企業者に該当する会社であることその他の要件を満たすものに限ります。)
ハ 内国法人のうち、沖縄振興特別措置法第57条の2第1項に規定する指定会社で平成26年4月1日から令和7年3月31日までの間に同項に規定による指定を受けたもの
ニ 国家戦略特別区域法第27条の5に規定する株式会社
ホ 内国法人のうち地域再生法第16条に規定する事業を行う同条に規定する株式会社
4.課税の繰延べ
投資額について、3.エンジェル税制の種類の(1)~(3)で、その年の他の株式の譲渡益から控除した場合や、その年の総所得金額から控除した場合、その控除額分だけ株式の取得価額を減額するので、その分だけ将来の課税対象額が増加するケースがあります。