源泉徴収が必要な報酬とは?

事業として個人や法人にお金を支払った場合に、源泉徴収が必要かどうかの判断をどのようにすればよいでしょうか。

判断をするうえで重要なポイントは次の3つです。

 

  1. 支払いを受けるものが個人法人
  2. その支払いは給与報酬
  3. その報酬は、源泉徴収が必要な報酬なのか

本記事ではこの3つのポイントを順番に確認し、ケースごとの対応方法をまとめておりますので、皆様のご参考になれば幸いです。

※非居住者(生活の中心が国外にあるような人)・外国法人(国内に本店又は主たる事務所がない法人)に対しての源泉徴収については別記事にてご紹介します。

 

 

1.支払いを受けるものが個人か法人か

明らかに個人へ支払っているケース

次の「2.その支払いは、給与か報酬か」に進みましょう

明らかに法人へ支払っているケース

法人への支払いは、「馬主である法人に支払う競馬の賞金」以外は源泉徴収の必要はありません。

所得税法第174条より

個人か法人か判断に迷うケース

例)支払先が研究会や劇団といった団体相手など

 

源泉徴収は下の①と②のうちどちらかに当てはまる場合に必要となります。

 

① その支払いを受けるものが法人税を納める義務がある

② 定款や規約、日常の活動状況などから、団体として独立して存在していることが明らかである

所得税法基本通達204-1より

 

つまり、

支払いを受けるものが、①か②のどちらかに当てはまる法人として取り扱います。

支払いを受けるものが、①と②のどちらにも当てはまらない個人として取り扱います。

2.その支払いは給与か報酬か

個人への支払いが給与なのか報酬なのかの判断は、契約の種類や内容を加味し、支払相手が給与所得とすべきものか事業所得とすべきものかで考える必要があります。

 

判断のポイントは最高裁昭和 56 年 4 月 24 日第二小法廷判決にて下記のように述べられています。

 

「給与所得とは、雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうもので、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的または時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない」

 

「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性及び有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいう」

 

視覚的にわかりやすく整理してみますと、以下のようになります。

 

給与所得とは

雇用契約あるいはそれに類するものを結んでいる給与支給者との関係において

  1. 何らかの空間的または時間的な拘束を受けている(9時~17時など勤務時間が決まっている・職場が給与支給者に指定されるなど)
  2. 継続的ないし断続的に労務又は役務の提供がある(成果物の提出により契約が満了するといったことがない)
  3. 上記2の対価として支給されるもの(金銭等の支給が成果物の提出等に左右されないなど)

上記1~3に該当する所得をいう

事業所得とは

  1. 自己の計算と危険において独立して営まれている
  2. 営利性及び有償性を有している
  3. 反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得である

上記1~3に該当する所得をいう

この基準を参考に、個人への支払いを給与(受け取る側が給与所得とする支払)か報酬(受け取る側が事業所得とする支払)かを判断する必要があります。

 

給与と判断した場合は、給与所得の源泉徴収税額表を用いて源泉所得税額を計算することとなります。

 

報酬と判断した場合は、「3.その報酬は源泉徴収が必要な報酬なのか」に進みましょう。

 

注意したい事例

嘱託産業医(いわゆる嘱託医)への支払いは給与か報酬か(個人と契約している場合)

 

まずは言葉の定義から確認していきます。

 

産業医:常時50人以上の労働者を使用するに至った時から14日以内に選任する必要がある、職場において労働者の健康管理等を効果的に行うために、医学に関する専門的な知識を有する医師(要件有)のことをいう。

嘱託産業医:常時50人以上で999人以下の労働者を使用する事業場において選択可能な嘱託(非常勤)の専任形態の産業医(例外有)のことをいう。

厚生労働省HP「産業医について」より

 

まず、個人の医師が事業者から支払を受ける産業医としての報酬は、所得税法上は原則として給与に該当するものとして取り扱われています。(国税庁 質疑応答事例「産業医の報酬」より)

 

ただし、税務上は業務の実態から判断するため、個々のケースごとに判断を行う必要があります。

 

嘱託医との契約において、嘱託医側に裁量がないような、毎月1回訪問をする、年に2回健康診断を行う、という「継続的ないし断続的に労務又は役務の提供がある」内容や、指定の場所、指定の時間に訪問して業務を行う、という「空間的または時間的な拘束を受けている」内容に合致することで給与所得と判断する場合が多いです。

 

3.その報酬は源泉徴収が必要な報酬なのか

 

報酬・料金等の支払を受ける者が個人の場合は源泉徴収の対象となる業種や業務内容が以下のように定められています。

 

  1. 原稿料や講演料など
  2. 弁護士や公認会計士、税理士、司法書士などの特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
  3. 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
  4. プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに払う報酬・料金
  5. 映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
  6. ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
  7. プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
  8. 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金

所得税法204条より

 

つまり、これらに該当しないような報酬は源泉徴収の必要がないものとなります

 

「原稿料や講演料など」とは…

具体例としては

 

「原稿」・「挿絵」・「写真」・「作曲」・「レコード、テープ又はワイヤーの吹き込み」・「デザイン」・「放送謝金」・「著作権の使用料」・「著作隣接権の使用料」・「工業所有権等の使用料」・「講演」・「技芸、スポーツ、知識等の教授、指導料」・「脚本」・「脚色」・「翻訳」・「通訳」・「校正」・「書籍の装丁」・「速記」・「版下」・「投資助言業務」

 

などに該当するものとされています。

所得税法基本通達204-6より

 

 

「デザイン」にあたる報酬・料金とは…

具体例としては

 

(1) デザインの報酬

・工業デザイン…自動車、オートバイ、テレビジョン受像機、工作機械、カメラ、家具等のデザイン及び織物に関するデザイン

・クラフトデザイン…茶わん、灰皿、テーブルマットのようないわゆる雑貨のデザイン

・グラフィックデザイン…広告、ポスター、包装紙等のデザイン

・パッケージデザイン…化粧品、薬品、食料品等の容器のデザイン

・広告デザイン…ネオンサイン、イルミネーション、広告塔等のデザイン

・インテリアデザイン…航空機、列車、船舶の客室等の内部装飾、その他の室内装飾

・ディスプレイ…ショーウィンドー、陳列棚、商品展示会 場等の展示装飾

・服飾デザイン…衣服、装身具等のデザイン

・ゴルフ場、庭園、遊園地等のデザイン

(2)映画関係の原画料、線画料又はタイトル料

(3)テレビジョン放送のパターン制作料

(4)標章の懸賞の入賞金

 

などが挙げられています。

所得税法基本通達204-7より

 

 

「技芸、スポーツ、知識等の教授、指導料」にあたる報酬・料金とは…

具体例としては

 

(1)生け花、茶の湯、舞踊、囲碁、将棋等の遊芸師匠に対し実技指導の対価として支払う謝金等

(2)編物、ペン習字、着付、料理、ダンス、カラオケ、民謡、語学、短歌、俳句等の教授又は指導及び各種資格取得講座に係る講師謝金等

 

などが挙げられています。

所得税法基本通達204-6より

 

弁護士や公認会計士、税理士、司法書士などの特定の資格を持つ人とは

該当する人は

 

「弁護士」・「外国法事務弁護士」・「公認会計士」・「税理士」・「計理士」・「会計士補」・「社会保険労務士」・「弁理士」・「企業診断員」・「司法書士」・「土地家屋調査士」・「海事代理士」・「測量士」・「測量士補」・「建築士」・「建築代理士」・「不動産鑑定士」・「不動産鑑定士補」・「技術士」・「技術士補」・「火災損害鑑定人」・「自動車等損害鑑定人」

 

となっています。

所得税法施行令第320条より

 

行政書士の業務に関する報酬は非該当のため、源泉徴収の必要はありません

 

注意したい事例

ウェブサイトのデザイン料を支払う場合

例示されているデザインの中にはありませんが、源泉徴収の必要があります。しかし、ウェブサイトの制作費用については源泉徴収の必要がないため、費用総額の内訳を確認したうえで計算をすることとなります。

デザインの報酬・料金とその施工に対しての料金を一括して支払う場合

それぞれを区分し、デザインの報酬・料金について源泉徴収を行います

※デザインの報酬・料金の部分が極めて少額であると認められるときは、源泉徴収をしなくて差し支えありません。

所得税法基本通達204-8より

 

 

ちなみに、極めて少額とは具体的にいくらなのかは明示されていません。そのため、基本的には源泉徴収の必要がありますが、総額の内1~2割に満たない金額が報酬に該当し、社会通念上少額といえるような金額の場合には源泉徴収しないことを検討してもよいかと思います。

 

以上で、「源泉徴収が必要な報酬について」の説明を終わります。